上野正彦

私が特に提起しておきたいのは、今日の日本では自殺の原因が厳しく追及されていない、ということである。それは「自殺はあくまでも本人の自己責任である」という考え方によるもので、自殺は他殺と違い、事件性はなく、本人の意思で死を選んでいるため、その動機が失恋でも失業でも病苦でも問題視されない。しかし、自殺の動機を詳しく分析すると、自殺者の多くは好んで自ら死を選択しているのではなく、それなりの苦悩があることがわかる。事業の失敗、失恋、リストラ、家族からの疎外等々、周囲の環境に圧迫され、追い詰められてやむなく死を決行しているのである。 いじめがあり、それを苦に子どもが自殺したとしたら、その子を死に追い詰めた原因は、紛れもなく、「いじめた側」にある。いじめ自殺は自己責任で死んだのではない。いじめの加害者たちによって追い詰められ、殺されたのだ。 もちろん、これは学校のいじめ自殺だけに限った話ではない。長時間の過酷な労働や職場でのストレス、家庭内暴力や身内からの疎外、恋愛のもつれなど、人が自殺を選ぶ背景には、必ずその人を精神的に追い詰めた外的な要因が存在している。 残された家族にとっても、身内が自殺した本当の理由を知りたいと思うのは当たり前のことである。しかし、警察は民事不介入であるから事件性がなければ動かない。